研究内容

共同研究

周術期アナフィラキシーの疫学的調査と全国診断支援システムの構築

臨床研究について

九州大学病院では、最適な治療を患者さんに提供するために、病気の特性を研究し、治療法などの改善に努めています。このような試みを「臨床研究」といいます。その一環として九州大学病院麻酔科蘇生科では、現在、周術期(手術の前、手術中、手術の後)に生命にかかわる思いアレルギー症状を発症した患者さんを対象として、アレルギーの原因となる薬の特定方法に関する研究を行っています。この研究は、研究代表医師 群馬大学医学部付属病院 集中治療部 髙澤知規医師を研究代表者とする日本麻酔科学会学術助成研究事業「周術期アナフィラキシーの疫学的調査と全国診断支援システム構築」の委託を受けて、九州大学大学院医学研究院麻酔・蘇生学の山浦健を研究責任者、藤吉哲宏を研究担当者として実施します。九州大学病院(以下、当院)では、このような研究を行う場合には臨床研究審査委員会を設置し、その研究内容について医学的な面だけでなく、患者さんの人権、安全および福祉に対する配慮も十分検討し、病院長の許可を得て行うこととしております。期間は2023年10月31日までです。

研究の目的や意義について

手術を受ける前中後(周術期といいます)に生命に関わる重いアレルギー症状(アナフィラキシーといいます)を起こす確率は1,000~10,000件に1件程度と報告されています。
 今回あなたは周術期に使用した薬剤でアナフィラキシー症状が発生しました。あなたが今後手術を受けられる際、原因薬剤が特定出来ていれば、その薬剤の使用を避けることができる可能性があり、今後の手術の安全性が高まると考えられます。
 原因薬剤を検索する試験としては、皮膚テストおよび血液を用いた好塩基球活性化試験(Basophil Activation Test:BAT)、特異的IgE抗体価の測定があります。皮膚テストはプリックテストと皮内テストに分けることができ、両検査とも原因薬剤を少量体内に注入することにより、小規模のアレルギー反応を誘発し、原因薬剤の特定を目指すものです。一方、BATは採血した少量の血液を用いて試験管内でアレルギー状態を作り、それを検査するものです。特異的IgE抗体価の測定は特定の物質にのみ反応するIgEという抗体が血液の中に存在するかどうかを調べます。原因薬剤検索には、皮膚テスト、BAT、特異的IgE抗体価の測定が有用と考えられます。
 このように、本研究は周術期に発生したアナフィラキシー症状の原因薬剤を特定するために行われます。さらに、アナフィラキシーの発生頻度、重症度などのデータを解析することにより、全国で発生したアナフィラキシーに対応できるシステムの構築を目指しています。

研究の対象者について

この研究に参加していただくのは、以下の方です。
●周術期に予期しない低血圧や気管支けいれんが起こり、それが薬剤を原因としたアナフィラキシーと診断、または強く疑われた方
●研究に文書でご同意いただけた方
●皮膚テストを受ける予定の方
 
 この研究では当院で3名を対象としています。
●この研究は全国約50施設で行われており、予定総対象者数は150名です。
 
 以下の方は、この研究に参加していただくことができません。
●研究に文書で同意がいただけない方
●皮膚テストを受けなかった方
●治験薬などの未承認薬を使用されている、または使用予定の方
●その他、この研究に適当ではないと医師が判断した方
 

研究の方法について

この研究は群馬大学医学部付属病院を主施設として、全国約50施設で行われています。この研究のための情報は、群馬大学医学部附属病院臨床試験部データセンター部門が管理する臨床研究支援システム(ACReSS)を用いで管理されます。この情報には個人を特定する情報(氏名、患者ID、生年月日、住所など)は一切含まれません。
アナフィラキシー発生時
●診療録からの情報
  年齢、性別、身長、体重、アレルギー歴
●アナフィラキシー症状についての調査
  時間、症状、処置の内容、
アドレナリン投与前後のバイタルサイン(意識、血圧、心拍数、経皮的酸素飽和度)
●原因薬剤の調査

アナフィラキシー発生30分後、2時間後および24時間後
●血漿(けっしょう)中ヒスタミン・トリプターゼ濃度

アナフィラキシー発生4~6週間後
●皮膚テスト(結果のみ報告)
●BAT
●特異的IgE抗体価

検査方法
1)血漿(けっしょう)中ヒスタミン・トリプターゼ濃度の測定
アナフィラキシー発生30分後、2時間後、24時間後に採血を行います。各回、診療用血液(約7mL)に加え、研究用(約10mL)を採血を行います。この検査はアナフィラキシーの原因となった薬剤検索のために、通常の診療として行われますので、その採血の時に追加で本研究用の採血を行います。測定は、LSIメディエンス株式会社で実施します。採血した血液は、患者さんの名前やIDなどの個人を特定する情報を用いず、研究登録番号のみを用いて、測定施設へ郵送します。

2)皮膚テスト
 主治医もしくは担当医が必要と判断した場合に行われます。アナフィラキシーの原因薬剤を特定するために行われる一般的な検査で、通常はアナフィラキシー発生から約6週間以内に当院の皮膚科で行われます。この研究のために特別に行われる検査ではありません。この検査結果を登録させていただきます。皮膚テストの詳細は、皮膚テストを行う際に、主治医や担当医、皮膚科の外来担当から説明があります。

 3)BAT(好塩基球活性化試験)
 皮膚テストにおいて、投与経路確保のための点滴を行う際、10 mL程度の採血を行います。皮膚検査で来院された際に、麻酔科の外来にて採血を行います。採血した血液は、患者さんの名前やIDなどの個人を特定する情報を用いず、研究登録番号のみを用いて、群馬大学医学部附属病院を含む全国10実施医療機関のいずれかに郵送して測定します。この血液を用い、フローサイトメトリー(レーザー光を照射して個々の細胞を光学的に分析する方法)でアレルギー反応を解析します。

4)特異的IgE抗体価の測定
 BAT用と同じタイミングで3ml程度の採血を行います。採血した血液は、患者さんの名前やIDなどの個人を特定する情報を用いず、研究登録番号のみを用いて、測定施設へ郵送します。測定はサーモフィッシャーダイアグノスティックス株式会社にて郵送して実施します。

上記の検査のうち、診療に必要な検査として1) 血漿(けっしょう)中ヒスタミン・トリプターゼ濃度の測定と2)皮膚テストが行われます。診療用検査に加えて、この研究用にすべての患者さん対して1)と2)が行われます。ただし、アナフィラキシー症状が軽症の方は、3)BATを実施しないことがあります。また、4)特異的IgE抗体価の測定については、原因と考えられる薬剤に対する測定キットがある場合にのみ実施します。

研究に関する利益と予測される負担や不利益について

予想される利益としては、周術期アナフィラキシーの原因薬剤を特定することができれば、以降にお受けになる手術において当該薬剤を避けることができるかもしれません。よってあなたが今後手術および麻酔を受ける場合の安全性は向上すると考えられます。
 不利益としては、血漿(けっしょう)中ヒスタミン・トリプターゼ濃度の測定、BAT、特異的IgE抗体価測定のための採血による不快な症状として採血箇所の痛み、軽度の内出血など、通常の血液検査のための採血と同様の合併症が起こることがあります。

健康被害が発生した場合の対応について

この研究の期間中や終了後に何か気になる症状が現れましたら、どのようなことでも遠慮なく申し出て下さい。金銭的な補償はありませんが、通常の診療と同様に適切に対処いたします。その際の医療費はあなたが加入している健康保険が使用されますので、一部ご負担いただくことになります。
この研究に起因したと考えられる健康被害について後遺障害が生じた場合にはその内容と程度に応じて補償金が支払われます。

経済的な負担や謝礼について,研究への参加とその撤回について

あなたに通常の治療費以外に新たな負担を求めることはありません。
また、あなたに謝礼をお渡しすることもありません。

この研究への参加はあなたの自由な意思で決めてください。同意されなくても、あなたの診断や治療に不利益になることは全くありません。


個人情報の取扱いについて, 試料や情報の保管等について

あなたの血液検査結果やカルテの情報をこの研究に使用する際には、あなたのお名前をこの研究専用の番号に置き換えて取り扱います。あなたと研究用の番号を結びつける対応表は九州大学大学院医学研究院麻酔・蘇生学分野内の施錠された保管庫に保存します。この保管庫が設置されている部屋は、同分野の職員によって入室が管理されており、第三者が立ち入ることはできません。
また、この研究の成果を発表したり、それを元に特許等の申請をしたりする場合にも、あなたが特定できる情報を使用することはありません。
この研究によって取得した情報は、九州大学大学院医学研究院麻酔・蘇生学分野 教授 山浦 健の責任の下、厳重な管理を行います。
あなたの血液、測定結果、診療録の情報を、主施設(群馬大学医学部附属病院)や血液検査施設へ郵送する時は九州大学にて上記のような対応をした後に行いますので、あなたを特定できる情報が外部に送られることはありません。

〔試料について〕
この研究において得られたあなたの血液検体は、すべて血液検査施設へ郵送して測定されます。この試料は原則としてこの研究のために使用します。郵送までは、九州大学大学院医学研究院麻酔・蘇生学 教授 山浦健の責任の下で保管し管理します。郵送後は主研究施設である、群馬大学医学部付属病院 集中治療部 髙澤知規医師の責任で管理します。

〔情報について〕
この研究において得られたあなたのカルテの情報等は原則としてこの研究のために使用し、九州大学大学院医学研究院麻酔・蘇生学 教授 山浦健の責任の下で、10年間保存した後、研究用の番号等を消去し、廃棄します。
 また、この研究で得られたあなたの試料や情報は、将来計画・実施される別の医学研究にとっても大変貴重なものとなる可能性があります。そこで、あなたの同意がいただけるならば、将来新たに計画・実施される医学研究にも使用させていただきたいと考えております。その研究を行う場合には、改めてその研究計画を倫理審査委員会において審査し、承認された後に行います。

この研究の費用について, 利益相反について

日本麻酔科学会学術助成研究事業「周術期アナフィラキシーの疫学的調査と全国診断支援システム構築」の研究費にて行います。

九州大学では、よりよい医療を社会に提供するために積極的に臨床研究を推進しています。そのための資金は公的資金以外に、企業や財団からの寄付や契約でまかなわれることもあります。医学研究の発展のために企業等との連携は必要不可欠なものとなっており、国や大学も健全な産学連携を推奨しています。
 一方で、産学連携を進めた場合、患者さんの利益と研究者や企業等の利益が相反(利益相反)しているのではないかという疑問が生じる事があります。そのような問題に対して九州大学では「九州大学利益相反マネジメント要項」及び「医系地区部局における臨床研究に係る利益相反マネジメント要項」を定めています。本研究はこれらの要項に基づいて実施されます。
本研究は研究遂行にあたって特別な利益相反状態にはありません。利益相反についてもっと詳しくお知りになりたい方は、下記の窓口へお問い合わせください。

利益相反マネジメント委員会
(窓口:九州大学ARO次世代医療センター 電話:092-642-5082)

研究の実施体制について, 相談窓口について

この研究は以下の体制で実施します。

研究実施場所(分野名等) 九州大学大学院医学研究院麻酔・蘇生学
九州大学病院麻酔科蘇生科
研究責任者 九州大学大学院医学研究院麻酔・蘇生学 教授 山浦 健
研究分担者 九州大学大学院医学研究院麻酔・蘇生学 助教 藤吉 哲宏

共同研究施設
及び
試料・情報の
提供のみ行う
施設 施設名 / 研究責任者の職名・氏名 役割
群馬大学医学部附属病院/講師 髙澤 知規
岡山大学大学院医歯薬総合研究科/助教 松岡 義和
長崎大学医学部/教授 原 哲也
札幌医科大学医学部/特任助教 高橋 和伸
福島県立医科大学大学院医学系研究科/教授 黒澤 伸
信州大学医学部/講師 杉山 由紀
金沢大学医学部/准教授 栗田 昭英
大阪大学大学院医学系研究科/教授 藤野 裕士
高知大学医学部/准教授 河野 崇
BAT集中測定実施医療機関

業務委託先
(血液検査) ヒスタミン・トリプターゼ濃度測定
企業名: LSIメディエンス株式会社
所在地:東京都千代田区内神田1丁目13番4号
特異的IgE抗体価測定
企業名:サーモフィッシャーダイアグノス株式会社
所在地:東京都港区芝浦4-2-8

この研究に関してご質問や相談等ある場合は、下記担当者までご連絡ください。

事務局
(相談窓口) 担当者:九州大学大学院医学研究院 麻酔・蘇生学 藤吉 哲宏
連絡先:〔TEL〕092-642-5714
    〔FAX〕092-642-5722
メールアドレス:fujiyoshi.tetsuhiro.654@m.kyushu-u.ac.jp

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